高年齢雇用継続給付
[コウネンレイコヨウケイゾクキュウフ]
「高年齢雇用継続給付」とは、定年後も企業に雇用されて働き続ける65歳未満の人が、60歳到達時点に比べ賃金が75%未満に低下した場合に雇用保険から支給される給付金であり、「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2種類に分かれます。前者は、60歳以降も継続して同一企業に雇用されている60歳以上65歳未満の人が、後者は、退職して失業給付を受けた後、60歳以降に再就職した60歳以上65歳未満の人が支給対象となります。高年齢雇用継続給付は、高年齢者の就業意欲を維持、喚起し、65歳までの雇用継続を援助、促進することを目的とした制度です。
高年齢雇用継続給付のケーススタディ
給付金活用を“下流老人”転落の歯止めに
雇用継続や再就職の際の賃金減額分を補填
昨今、“下流老人”という言葉をよく聞きます。下流老人とは、老後の貧困に苦しみ、生活保護レベルの暮らしを強いられる高齢者のことで、生活困窮者支援に取り組むNPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典さんが考案した造語です。「このままだと高齢者の9割が貧困化し、貧困に苦しむ若者も増える」と、藤田さんが警鐘を鳴らした同名の著書『下流老人』は20万部を超えるベストセラーになりました。将来に対する人々の不安がいかに強く、根深いかがうかがわれます。現に、内閣府の調査では、「世帯の高齢期への経済的備え」について、60~64歳で貯蓄が「十分だと思う」と回答した人は3.6%しかいなかったのに対し、「かなり足りないと思う」と答えた人は約10倍、35.5%にものぼりました。下流老人への転落の不安は、けっして他人事ではないのです。
しかも公的年金の支給開始年齢は現在、60歳から65歳まで段階的に引き上げられている途中で、現在54歳以下の男性については、65歳まで公的年金が受けられません。となれば、定年後、60歳を過ぎても働けるうちは働き続けて、蓄えを増やしておこうと考えるのが普通ですが、高齢者にとって継続雇用や再就職は狭き門。働き続けることができても、賃金は60歳の時点より下がってしまうケースが少なくありません。もちろん企業にとっても、ベテラン人材の活用と人件費の適正化との両立は悩ましい課題です。
その救済策として設けられているのが雇用保険の「高年齢雇用継続給付」制度。60歳到達時などに比べ賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける60歳以上65歳未満の被雇用者を対象に、原則として事業主がハローワークに申請することで、被雇用者個人に直接支給される給付であり、雇用継続の場合の「高年齢雇用継続基本給付金」と再就職の場合の「高年齢再就職給付金」の2種類の給付金があります。要するに所得補償として、低下した賃金の一部を補填するしくみで、その支給額は支給対象月に支払われた賃金額の低下率に基づき、以下のように算定されます。
低下率は<支給対象月に支払われた賃金額÷60歳到達時の賃金月額×100>で求められ、支払われた賃金の低下率が61%以下なら、支給額は支給対象月賃金額の15%、低下率が61%を超え75%未満の場合は、支給率は15%から一定割合で逓減されます。また、高年齢雇用継続給付制度には支給限度額の規定があります。これは毎年8月に変更され、現行の規定では、支給対象月に支払われた賃金額が341,015円を超えると、給付金は支給されません。賃金が下がったといっても、これ以上の額であれば、そもそも十分な賃金を得ているので、高年齢雇用継続給付の支給対象としないということです。