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専門家コラム

テック業界でM&Aを成功させ成果を最大化する鍵は実行力

2025-08-09 テーマ: 海外進出

厳しい現実として、M&Aの67%は、期待された成果を実現できていません。これは単なるミスではなく、警鐘です。

その最大の原因は何でしょうか?それはオペレーション統合の失敗です。バリュエーションでも、テクノロジーでも、顧客離れでもありません。M&Aの多くはクロージング後に頓挫します。理由は、オペレーションの複雑さを無視するか、後回しにしてしまうからです。

もし貴社が、プライベート・エクイティ、M&Aアドバイザー、あるいは国際的なテック企業のカーブアウトを支援する法律顧問であれば、この問題は他人事ではないはずです。これらは仮説上のリスクではなく、現実に起きている致命的な問題であり、回避可能なものです。

国際的なカーブアウトでは、買収者はテクノロジー、チーム、顧客を取得しますが、しばしばそれらを運営するための法的主体(リーガルエンティティ)を引き継ぎません。その結果、買収者は、ほとんど知見のない国や地域で、人材の雇用、知的財産の保護、業務オペレーションの再構築といった課題に直面することになります。

それでもなお、多くの案件でとられているスタンスはこうです。
「オペレーションはクロージング後に考えればいい」。

この前提こそが、M&Aを即座に失敗へと導く要因です。

本コラムでは、統合をスムーズに進め、真の価値を引き出すために避けるべきオペレーショナルな落とし穴を明らかにします。

 

資料ではわからないデューデリジェンスの抜け穴

従来のデューデリジェンスでは、売上、知的財産(IP)、顧客集中度といった項目は精査されます。しかし、多くの場合、オペレーションの実態までは見落とされています。

■グローバル給与計算の整備不足
クロージング後の影響:支払い遅延、法令違反、従業員離職

■人事システムの分断
クロージング後の影響:レポートの混乱、データ損失

■法人構造の不整合
クロージング後の影響:PEリスク、規制対応の遅れ、現地雇用の不可能性

■業務委託契約の誤分類
クロージング後の影響:税務調査、追徴課税、制裁金

 

クロージング後に買収企業からご相談を受ける際、こうした領域のいずれかが見落とされており、想定していた成果が実現していないケースが大半です。これは決して珍しいことではありません。
急成長中のテック企業は、インフラよりも成長を優先する傾向があります。日々の業務は何とか回っていても、M&Aによってその“無理”が一気に表面化するのです。

以下は、実際に私たちが現場で見てきた例の一部です。

  • 12カ国以上に分散する開発者に対し、現地雇用体制が未整備
  • 地域ごとの業務が“シャドーIT”で運営されている
  • 名ばかりの「業務委託」が、実態はフルタイムリーダー
  • Googleスプレッドシートで管理されるグローバル福利厚生

これらの問題は、デューデリジェンスの資料では見えてきません。
しかし、契約書にサインした直後から表面化し、統合プロセスの障害となるリスクをはらんでいます。

 

テックM&Aを頓挫させる、5つのオペレーション上の落とし穴

以下に挙げる各課題は、実際のM&A案件を破綻または深刻な遅延に追い込んだ原因です。事前に把握し、対処しておくべき重要なポイントです。

■給与システムのパッチワーク問題

急成長中のテック企業は、国ごとにローカルの給与ベンダーを追加しながら、場当たり的にグローバル給与体制を構築していることがよくあります。その結果、以下のような問題が蓄積されていきます。

  • 統一されていない給与システム
  • 国ごとに異なる税務カレンダー
  • 一貫性のないコンプライアンス体制

■その結果、何が起きるか?

  • 給与の統合プロセスに長期の遅延が発生
  • 重複システムによる高コストと罰則リスク
  • 給与ミスや混乱による従業員の離職率上昇

■デューデリジェンスでの要注意サイン

  • 給与処理が手作業で行われている
  • 従業員のマスターデータが統合されていない
  • 一人あたりの管理コストが高い

■買収前に確認すべき重要な質問

  • 現在稼働している給与ベンダーは何社ありますか?
  • 国ごとの従業員1人あたりの実質的な給与処理コストは?
  • 過去にコンプライアンス違反や指摘を受けたことはありますか?

 

業務委託契約の誤分類という“コンプライアンス時限爆弾”

グローバルでの採用を迅速に進める手段として、業務委託(インディペンデント・コントラクター/IC)の活用は一見効率的に思えます。しかし、実態として従業員であるにもかかわらずICとして分類していると、法的・財務的なリスクが一気に噴出する可能性があります。

■その結果、起こり得るリスク

  • 政府による監査や調査の対象となる
  • 統合やクロージング後の運用に大幅な遅延が生じる
  • 多額の罰金や未払い賃金の支払い義務が発生

■デューデリジェンスでの注意ポイント

  • ICとして分類されている人材が多数存在する
  • 一律で画一的な業務委託契約書を使用している
  • 主要市場に現地のHR担当者や法人が存在しない

■事前に実施すべきチェックリスト

  • 従業員区分の監査(classification audit)を実施
  • 業務委託の活用にはAOR(Agent of Record)の導入を検討
  • ビザや就労許可証のリスクを見直す
  • 各国の労働法に基づくリスクマッピングを行う

 

HRシステムの混乱

急速なグローバル成長の結果、地域ごとに異なるHRシステムが乱立し、データの一元管理ができていないというケースは非常に多く見られます。これにより、統合プロセスや日常業務に大きな支障をきたします。

■その結果、起こり得る課題

  • カスタム連携ツールやミドルウェアへの高コストが発生
  • 地域ごとに同様の手作業プロセスが繰り返される
  • 給与・人員データを統合的に把握できない

■デューデリジェンスでの注意ポイント

  • 統合されていないHRシステムが複数稼働している
  • 基本的なHR業務で手作業の迂回策が使われている
  • グローバル従業員のマスターデータが存在しない

■未然に防ぐために

  • 現在使用しているHRシステムをすべて棚卸する
  • 各ツールの統合・連携可能性を評価する
  • データガバナンス体制とシステムオーナーシップを明確化する
  • ベンダー統合およびグローバル統合型HR/給与ソリューションの導入を検討する

 

法人構造の迷路

税務戦略を最優先に設計された法人構造は、実際のオペレーションと整合しないことが多くあります。買収先の法人が実体を欠いている/休眠状態にある/想定外の税務・法務リスクを抱えているといった事態に陥る可能性があります。

■その結果、発生しうるリスク

  • 現地実体の欠如により規制当局の監視対象になる
  • 恒久的施設(PE)リスクの顕在化
  • 法人構造と業務実態の不整合による統合遅延

■デューデリジェンスでの注意ポイント

  • スタッフや実務のない法人が存在する
  • 意思決定が法人登記地以外で行われている
  • 地域ごとに所有構造がバラバラ

■確認すべき重要なポイント

  • 各法人には実体(従業員、オフィス、マネジメント)があるか?
  • 休眠法人や、本来の目的外で稼働している法人はないか?
  • PEリスクや義務的な報告要件を引き起こす構造ではないか?
  • 知的財産、契約権限、人員管理が法人構造と整合しているか?

 

人材流出の危機

テック企業の価値は、多くの場合人材そのものにあります。しかし、M&A後に優秀な人材が流出すれば、その取引自体が破綻しかねません。特に、買収対象に現地法人が含まれていない場合や、給与の統合時に混乱が生じた場合に、「雇用主不在」の状態が生まれ、重大なリスクとなります。

■その結果、起こり得る影響

  • キータレントの流出とチームの弱体化
  • 想定外のリテンション(引き留め)コストの増加
  • プロダクト納期の遅延や顧客損失の発生

■デューデリジェンスでの注意ポイント

  • ローカル法人が買収対象に含まれていない
  • 雇用主やEOR(雇用代行)体制が整っていない
  • 株式報酬制度の条件や執行可能性が不明確

■買収前に確認すべき事項

  • 重要な人材を雇用している法人はどこか?
  • 一時的な対応としてEORの導入が可能か?
  • 地域ごとの報酬・福利厚生水準と整合しているか?
  • ポストクロージング後の人材定着戦略とコミュニケーション計画が策定されているか?

 

エンティティ・ギャップへの対応策:EORを活用した戦略的ブリッジ

この状況、心当たりはありませんか?

カーブアウト案件がクロージングされたものの、買収側はポーランド・シンガポール・ブラジルなどの市場に現地法人を持っていない、エンジニアは稼働準備万端、しかし給与は支払えず、福利厚生も宙に浮いたまま。チームの士気は急速に低下していきます。

このようなケースでは、海外雇用代行サービス(EOR)が法令遵守のための“橋渡し”役を担うことができます。

課題:雇用主不在の「孤立した従業員」
EORによる解決策:即時かつ適法な雇用の提供

課題:法人設立の遅延
EORによる解決策:短期的な法的雇用インフラの確保

課題:現地のHR機能の欠如
EORによる解決策:契約、福利厚生、給与処理を現地基準で適切に実施

課題:リテンション(人材流出)リスク
EORによる解決策:文化的背景を踏まえたローカライズ対応とサポート


EORモデルは、60日間の短期から18ヶ月以上の中長期まで柔軟に対応可能です。決してその場しのぎではなく、“安全に向こう岸へ渡るための、堅実で安定した橋”として機能します。

 

スムーズな移行と統合のためのフレームワーク

適切なサポートがあれば、タイトなスケジュール下でもワークフォース(人材)の移行は円滑に進めることが可能です。以下は、GoGlobalが実際に採用している「55日間カウントダウン・フレームワーク」の一例です。

GoGlobal株式会社 代表取締役
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